SaaS企業で大切なS&M比率とは|R&DやG&Aとの違いも解説

2022.02.06
SaaS企業で大切なS&M比率とは|R&DやG&Aとの違いも解説

S&M比率という言葉を皆さんは聞いたことあるでしょうか。これは、SaaS企業の費用分析を行うための指標です。S&M比率は海外のIT企業において使用されることが多く、日本企業でも近年注目され始めています。

 

しかし、「この指標から何が分かるのかイマイチ理解できていない」、「指標の見方が分からない」という方も多いのではないでしょうか。

 

そのような方に向けて、この記事ではS&M比率とはそもそも何か、S&M比率を有効に活用するためにはどうすれば良いのかについて詳しく紹介していきます。

 

SaaS企業では原価率と販管費率が重要

SaaSとは、提供者であるサーバー側で稼働するクラウド上にあるソフトウェアをインターネット経由でユーザーが利用するサービスです。

 

SaaSビジネスの特徴としては、サブスクリプション型であるということが挙げられます。サブスクリプションとは定額利用のことで、利用期間ごとに一定金額の利用料を払う仕組みです。

 

この仕組みにおいては、広告やマーケティングなどの販売活動を通じていかに顧客を獲得していくかが重要です。そのため、販管費率は非常に重要な値です。

 

また、その中でいかに原価を抑えて利益を上げるのかも企業にとって重要であるため、原価率も重要な指標となります。

原価率とは

原価率とは、「売上高に占める原価の割合」のことです。この計算方法は非常にシンプルで、「原価 ÷ 売上額」で計算できます。この割合が低ければ低いほど良く、企業は効率良く売上を上げているといえます。

 

なお、SaaS企業における原価は、サーバーのインフラ費用やカスタマーサクセス等の人件費を含めることが一般的です。

 

販管費率とは

販管費率とは「売上高に占める販売管理費及び一般管理費の割合」であり、「販売管理費及び一般管理費 ÷ 売上高」で計算します。

 

販売管理費とは、企業の営業活動に支出した費用のうち販売に関して発生した費用です。主に、販売員の給与や発送費などが含まれます。

 

そして、一般管理費とは企業の一般業務に関わる必要な全ての費用を指し、従業員の人件費や企業の水道光熱費などが含まれます。

 

 

販管費率は3つに分類できる

販売活動に関わる全ての費用である販売費と一般業務に関わる全ての費用を表す一般管理費の売上高が占める割合である販管費率。

 

日本ではこれを「販管費」として1つにまとめて開示していますが、これは細分化する必要があるのではないかという指摘もあります。

 

そして、実際に海外ではこれらを以下の3つに分けて開示するのが一般的です。

 

  • S&M
  • R&D
  • G&A

 

これら3つの分類について、それぞれ説明していきましょう。

 

S&M

S&Mとは「Sales & Marketing」の略で、営業及びマーケティングにかける費用を指します。具体的な例としては、営業・マーケティング担当者の人件費や広告宣伝費などがここに含まれます。

 

SaaSビジネスにおいて重要なことは、より多くの人に長く使ってもらうことであり、認知度を高めるには営業とマーケティング活動が非常に重要です。そのため、SaaS企業ではこのS&Mに積極的に投資する企業が多くなる傾向にあります。

R&D

R&Dとは「Research & Development」の略であり、研究開発に関する費用がこのR&Dに含まれます。具体的には、エンジニアの人件費や研究開発費などです。R&Dにかける費用は企業によって大きく異なります。

G&A

G&Aとは「General & Administrative」の略であり、日々のオペレーションに関わる費用や特定の機能・部署に直接的に関わらない費用を指します。具体的な例としては、総務などバックオフィス人件費や税金・企業の保険等が含まれます。G&Aにかける費用も、企業によって大きく異なる傾向です。

 

S&M比率の計算方法

それでは、S&M比率は具体的にどのように計算するのでしょうか。

 

S&M比率の計算式は、「S&M費用 ÷ 売上高」となっています。しかし、S&Mの費用は日本企業で開示している企業は少なく、自身で該当する費用を抽出しなければいけません。

 

この計算方法はいくつかありますが、S&M費用に含まれる主な要素は、広告費と販売・広告を行う部門の人件費です。

 

各企業の有価証券報告書には、販売管理費・一般管理費の項目として、広告宣伝費及び人件費の記載はあることが多いため、広告費+人件費×全社に占める販売・広告に関わる社員の割合をすればおおよそのS&M費用が計算できます。

S&Mで重要な広告費を無駄なく投資するには

ここまでは、販売管理費の分類など基本的な事項について紹介しました。しかし、これらの費用をむやみに投資しても事業の成立にはつながりません。

 

それでは、SaaS企業が積極的に投資をするS&Mの中でも重要な役割を占める広告費を効率良く投資するにはどうすれば良いのでしょうか。S&Mで重要な広告費を無駄なく投資するには、下記の3つの指標を活用すると良いです。

 

  • LTV
  • CAC
  • ユニットエコノミクス

 

ここからは、これらの指標が何を意味しているのか、どう活用できるのか詳しく見ていきましょう。

LTV

LTVとは「Lifetime Value」の略であり、生涯顧客価値を意味しています。これは、企業が1人の顧客から生涯にわたって得られる収益のことです。ARPU(ユーザー平均単価)に顧客のサービス平均利用期間をかけることで求められます。

 

このLTVの増加は、単価の増加もしくはユーザーの定着を意味するものです。そのため、サービス単価を上げていないのであれば顧客の定着率が高まったということを意味します。顧客が定着した場合には、広告にかける投資を減らしていくことが効率の良い投資につながります。

CAC

CACとは「Customer Acquisition Cost」の略であり、顧客獲得費用を意味しています。これは、顧客1人を獲得するにあたって必要なマーケティング・営業費用です。「マーケティング・営業費用 ÷ 顧客数」で計算します。

 

この値が低ければ低いほど少ない投資で顧客を獲得できている、つまり広告の投資効率が良いといえます。逆にこのCACがLTVを上回る場合、広告費が顧客から得られる収益を超えていることになるため、投資を考え直す必要があるでしょう。

ユニットエコノミクス

ユニットエコノミクスとは、ビジネスの最小単位1個あたりの収益性を指す指標であり、1人や1社など1顧客単位で計算されるのが一般的です。この指標は、SaaSビジネスなどのサブスク型のビジネスモデルにおいてよく用いられます。

 

ユニットエコノミクスは「LTV ÷ CAC」で計算することが可能です。この数値が高くなるほど、効率良く広告費を含む投資ができているといえます。

 

たとえCACを安く抑えられていても、LTVも少なければ事業全体の収益性は低く、ユニットエコノミクスは小さくなります。一般的には、これが3以上であること、及びCACの回収期間が12か月以内であることが健全なユニットエコノミクスの状態です。

海外SaaS企業のS&M比率の推移

S&M投資はSaaS企業において積極的に行われる傾向にあると前述しましたが、その傾向は国内・海外企業の間で差はあるのでしょうか。ここでは、海外SaaS企業のS&M比率の推移を紹介していきます。

 

世界のSaaS企業の例として、以下の3つが挙げられます。

 

  • Salesforce
  • Slack
  • servicenow

 

これら世界的に有名な3つの企業について、S&Mの比率を比較してみましょう。

Salesforce

Salesforceは営業支援・顧客管理などのソリューションを中心としたクラウドコンピューティングサービスを提供しています。

 

Salesforceの主な製品としては、SaaS型のアプリケーションである「Sales Cloud」や「Service cloud」、PaaS型アプリケーションである「Force.com」などがあります。

 

また、2021年にはビジネスチャットツールであるSlackを買収するなど、非常に勢いのある企業です。

 

2021年度の有価証券報告書によると、同企業のS&M比率は以下の通りとなっています。

このグラフを見ると、S&M比率は50%前後で推移していることが分かります。

 

Slack

Slack Technologyは、ビジネス用のメッセージングアプリであるSlackを提供しているSaaS企業です。同企業は前述の通り、2021年にSalesforceに買収されました。

 

買収以前の費用別割合について2020年の有価証券報告書によると、同企業の営業費用の内訳は以下の通りとなっています。

参照:slack

 

このように、S&M比率は各年度で多少変化はあるものの40%前後で推移していることが分かります。また、各比率の割合も大きく変化していないことが見て取れます。

 

servicenow

servicenowは、企業向けサービスマネジメントクラウドを提供するSaaS企業です。

 

同社の製品である、サービスマネジメントクラウドの「servicenow」では、ITから人事、カスタマーサービスまで幅広く提供しており、企業全体に及ぶデジタルワークフローの構築を行っています。

 

2020年の有価証券報告書によると、同社の費用別割合は以下の通りです。

servicenowにおけるS&M費用はおおよそ60%を推移しており、こちらも費用別の割合は一定になっているといえます。

 

日本SaaS企業のS&M比率の推移

近年、日本においても、さまざまなSaaS系のベンチャー企業がIPOを実現しています。ここでは、日本のSaaS企業のS&M比率の推移について解説していきます。

 

日本のSaaS企業の例としては、以下の3つが挙げられます。

 

  • Freee
  • ヤプリ
  • プレイド

 

これらの企業について、実際の事例を見ていきましょう。

freee

株式会社freeeは、クラウド会計・人事労務ソフトを中心に企業向けクラウドサービスを展開しているSaaS企業で、日本を代表するSaaS企業の1つです。

 

同社の主力サービスとしては、会計ソフトの「会計freee」や人事労務ソフトの「人事労務freee」などがあり、その他にもマイナンバー管理や会社設立などのサービスを展開しています。

 

freeeは国内企業の中でも、いち早くS&M比率を公開している企業です。

 

2021年6月期の有価証券報告書によると、同社の部門別費用割合は以下の通りとなっています。

このグラフを見ると、freeeのS&M比率は58%ほどとなっており、部門ごとの割合は3年間でおおよそ変化せずに推移していることが分かります。

 

ヤプリ

ヤプリは、アプリ開発や運用・分析をノーコードでできるアプリ開発クラウド「yappli」を提供するSaaS型企業です。

 

2020年12月期の決算説明資料によると、同社の部門別営業費用割合は以下の通りです。

ヤプリの営業部門別費用割合の特徴としては、S&M比率の高さとR&D比率の低さが挙げられます。S&M比率は、2018年から2020年までの間に10%以上も上昇しています。これは、広告宣伝費にかける比率は高いもののその割合について定まっていないことが分かります。

 

それに対し、R&D比率は2018年に1%、それ以降は0.5%未満となっています。このR&D比率の低さは特徴的であるといえるでしょう。

 

プレイド

プレイドは、サイトやアプリの訪問者の行動をリアルタイムで分析するためのCXプラットフォームである「KARTE」や、CXメディア「XD」などのサービスを中核とするSaaS型企業です。

 

20201年12月に公表された事業計画及び成長性に関する説明資料によると、同社の営業費用に占める部門別の割合は以下の通りとなっています。

 

このグラフから、S&M費用の年度ごとによる割合の差が読み取れます。2019年は49.8%となっていたS&M費用が2020年には61.0%、2021年には41.6%と、年度ごとに10%以上前後していることが分かります。

 

海外SaaS企業はコストの比率があまり変わらない

ここまで、日本のSaaS企業と海外のSaaS企業におけるコストの割合についてそれぞれ紹介しました。これら6つの実例から、海外SaaS企業と国内SaaS企業ではそれぞれの比率について違いがあることが分かります。

 

上の6つを見ると、海外SaaS企業ではS&M、R&D、G&A比率が一定の割合のまま推移しているのに対し、国内SaaS企業は年度ごとに部門別の配分が異なっている企業が多い傾向です。

 

海外企業のように各部門日の配分が一定になっていることは、企業の予算作成時に各費用が割り振られその通りに投資を行えていることがうかがえます。そのため、売上・コスト予測が立てやすく安定した業績を上げられるのです。

まとめ

S&Mとは「Sales & Marketing」の略で、営業及びマーケティングに関する費用全般を指します。

 

これは、SaaSビジネスなどのサブスク型企業において用いられることの多い指標ですが、日本では販管費としてR&DやG&Aと合わせて開示している企業も多いです。このS&M投資の効率性を考えるための指標としてLTVやCACなどがあり、これらを比較するものとしてユニットエコノミクスがあります。

 

SaaS企業においては、S&Mに積極的に投資する企業が多く、その傾向は国内・海外を問わずに見られます。ただ、各部門への費用配分について国内企業では年度ごとに費用割合が変化しているのに対し、海外企業は年度ごとの費用割合が一定で推移しています。

 

SaaS企業にとってS&M比率は非常に重要な指標となっております。他にも重要指標はたくさんありますので、さらに詳しく知りたいという方は、下記の資料をご参照ください。

 

 

監修者

広瀬好伸
株式会社ビーワンカレッジ 代表取締役社長

プロフィール

京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。

公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。

成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。

講演実績

株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。

論文

『経営指標とKPI の融合による意思決定と行動の全体最適化』(人工知能学会 知識流通ネットワーク研究会)

特許

「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)

アクセラレーションプログラム

OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。

取材実績

日本経済新聞、日経産業新聞、フジサンケイビジネスアイ、週刊ダイヤモンド、Startup Times、KANSAI STARTUP NEWSなど。

著書

『飲食店経営成功バイブル 1店舗から多店舗展開 23の失敗事例から学ぶ「お金」の壁の乗り越え方』(合同フォレスト)

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