SaaSのスタートアップ企業が知っておくべき「T2D3」とは?

2021.12.14
SaaSのスタートアップ企業が知っておくべき「T2D3」とは?

昨今の新型コロナウイルスの流行によるDX化(デジタル・トランスフォーメーション)の促進によって、SaaSは汎用性の高さから今最も注目されているITサービスです。SaaSとは、「Software as a Service」の頭文字をとった略称で「サース」と呼ばれており、インターネットを通してクラウド上で利用できるサービスのことを指します。

 

DX化が進む中、SaaS市場は年平均約13%の勢いで急成長しており、2024年には約1兆1,200億円の市場へと拡大する見通しといわれています。実際に、SaaSのクラウドサービスだけでなく、SaaSをサービスとして提供するスタートアップ企業も年々増加傾向です。

今回は、急成長市場として注目を集めているSaaSのスタートアップ企業が知っておくべき「T2D3」について、基礎知識からビジネスを成功に導くポイントまで解説していきます。

 

SaaS企業にとって重要なT2D3とは

SaaS企業とは、これまで完成品として販売していたソフトウェアを、インターネットを通してサービス提供している業態を指し、今急速に成長を続けているビジネス分野です。

身近な例でいうと、SNSやGmail、チャットツールの「Slack」、Web会議ツールの「Zoom」などがあり、利用者が目的に合わせて簡単にアクセスできるサービスです。

 

SaaS企業の業績を見る指標として、「T2D3」が活用されています。

T2D3の達成度により企業の優良度が判断され、スタートアップ起業の成長戦略に欠かせない評価基準です。実際、多くのプロの投資家が“デジタル関連株”に関心を集めており、T2D3の指標に注目しています。

 

まずは、SaaSビジネスでポイントとなるデジタルマーケティング用語を解説していきます。

T2D3とは

T2D3とは、(Triple, Triple, Double, Double, Double/トリプル2回、ダブル3回)の頭文字をとった略称で、クラウド領域で著名なNeeraj Agrawal氏が提唱したものです。

 

分かりやすくいうと、サービスをスタートしてからの売上額が、前年を基準に毎年3倍、3倍、2倍、2倍、2倍と上昇し、「5年で72倍」の売上を目指すという意味です。

SaaSのスタートアップ企業の成長スピードを測る指標とされています。

 

T2D3の具体例

実際に、T2D3の指標をもとに、ビジネスがどんなペースで成長するのかを具体例で説明していきます。

 

例えば、初年度(1年目)の売り上げが100万円だと仮定すると、以下のペースで売上高が増加していくことになります。

 

年数 売上高(万円) 前年比(倍)
1年目 100万円
2年目 300万円 3(Triple)=3倍
3年目 900万円 3 (Triple)=9倍
4年目 1,800万円 2(Double)=18倍
5年目 3,600万円 2(Double)=36倍
6年目 7,200万円 2(Double)=72倍

 

結果的に、6年後には72倍の売上高を見込むビジネスプランとなります。

 

実際にこのような急激な成長予測は現実的なのかと疑問に思ってしまうかもしれませんが、毎月の継続課金をモデルにしたSaaSビジネスは、DX化が進んでいく波に乗り、今後も大きな成長が期待される市場であるため、可能性が見込めます。

 
 

 

T2D3を実現するために知っておくべき用語

SaaSのスタートアップ企業が、実際に「6年後に 72 倍」の売上を達成することは、抜きんでたビジネスのスピード感とスケール感が求められます。

T2D3を実現するために、鍵となる3つのビジネス用語を解説します。

 

  • ARR
  • PMF
  • MRR

 

ARRとは

ARRとは、「Annual Recurring Revenue」の略称で、毎年決まって得られる一年間分の経常収益という意味です。サービスの利用者の利用状況を把握でき、また予測できることから、SaaSビジネスやサブスクリプションビジネスの運営によく活用されています。

 

ARRの推移をしっかり把握することで、ビジネスの新規顧客獲得や定着、解約などの成長性を確認することができるでしょう。

 

PMFとは

PMFとは、「Product Market Fit」の略称で、「プロダクト(製品やサービス)がマーケット(顧客の市場)にフィット(適合)し、受け入れられている状態」を指します。

 

新しく事業を展開する上で、事業の成長性、継続性、そして効率性を図るために、顧客目線でのPMFの考え方は必要不可欠な要素です。仮に、どんなに商品やサービス自体が優れていても、適切な市場や顧客にリーチできていないとPMFに到達することができず、当然のごとく収益を見込むことはできません。

 

つまり、「市場(ニーズ)」と「それに合わせたサービスや商品」を見極めるPMFの視点が、ビジネスを成功に導く最も重要かつ、基本要素となります。

MRRとは

MRRとは、「Monthly Recurring Revenue」の略称で、毎月繰り返し得られる一か月分の月間経常収益を指します。

 

MRRは、初期費用などは含まない、毎月の継続的な収益の可視化された変化を追うことで、ビジネスの成長率を測ることができる経営上の指標です。それは、投資家にとって重要な判断材料であり、最も注目する数値でもあります。

 

また、SaaSビジネスの初期段階において、経営の成否を分ける数値であるともいえるでしょう。

 

T2D3を実現するための方法

SaaSのスタートアップ企業が市場に参入してから「T2D3」を実現するためのプロセスには、7つのフェーズがあります。

 

  • フェーズ1:PMFの確立
  • フェーズ2:ARR(年間経常収益)200万ドル達成
  • フェーズ3:ARR600万ドル達成(3倍)
  • フェーズ4:ARR1800万ドル達成(3倍)
  • フェーズ5:ARR3600万ドル達成(2倍)
  • フェーズ6:ARR7,200万ドル達成(2倍)
  • フェーズ7:ARR1億4400万ドル達成(2倍)

 

それぞれのフェーズの達成ポイントを詳しく見ていきましょう。

フェーズ1:製品と市場を適合させる

フェーズ1では、PMFの視点で、顧客獲得の戦略を最優先すべきフェーズです。

そのために、製品の課題を見つけ、その課題に優先順位を付けながら、適切な市場に適合できる製品の確立へと、調整を行う必要があります。

 

まずは、顧客目線で戦略を立てることが大切です。

顧客へのヒアリングを通して、製品の価値を顧客に提供できているか確かめることができ、結果、売り上げにつながるヒントを拾い上げることもできます。

 

「顧客のニーズや製品と市場を適合させるSaaSを提供する」ことにポイントを置き、戦略を立てていきましょう。

フェーズ2:ARRで200万ドルに到達

フェーズ2では、適切な初期ユーザーを獲得することが何よりも重要です。

そのために取り組むべきことは、完璧なセールスピッチ、ターゲットの選定、ファネル管理を実行することが必要です。

 

具体的な目標は、ARR(年間経常利益)で200万ドルの到達を目指します。

例えば、1社あたりの平均経常収益が3万〜8万ドルと仮定すると、30〜60社の顧客を獲得できている状態を表します。

通常、このフェーズを完了するには1〜2年程度かかります。

フェーズ3:ARRを3倍の600万ドルにする

フェーズ3では、ARRをフェーズ2の3倍である600万ドルを目指します。

 そのために取り組むべきことは、営業リーダーと5~6名の営業スタッフで焦点を絞ったチームを結成することです。

次に、「理想的な顧客が誰であるか」「市場のピークから利益を得る方法は何か」など、データベースの柱を決め、一貫した企業成長のための安定した基盤を構築します。

フェーズ4:ARRをさらに3倍の1,800万ドルに

フェーズ4では、ARRをフェーズ3の3倍である1,800万ドルを目指します。

このフェーズでは、契約更新とリファラルが収益の向上の鍵となります。

そのために取り組むべきことは、フェーズ3からさらに10〜20人程度の営業スタッフを増員し、経営陣はマネージャー育成と大きなアカウント獲得について時間を費やす必要があります。

 

T2D3の提唱者Neeraj Agrawal氏は、多くのSaaS企業にとって最も困難なことは人材の育成であり、営業マネジャーをどう育て管理するか、が成長へとつながるハードルの1つといっています。

フェーズ5:ARRを2倍の3,600万ドルに

フェーズ5では、ARRをフェーズ4の2倍である3,600万ドルを目指します。

そのために取り組むべきことは、「グローバルの販売展開」にターゲットを置き、熟練したマネージャーが率いる強力な販売チームを編成する必要があります。

 

グローバルにビジネスを展開する際、まず初めの戦略は、広範囲ではなくターゲットとする特定地域を深く掘り下げることが重要です。

それにより、各国の顧客のデータや市場動向が構築することができ、成功戦略を導引する各国のリーダーを育成することにもつながります。

フェーズ6:ARRを2倍の7,200万ドルに

フェーズ6では、ARRをフェーズ5の2倍である7,200万ドルを目指します。

そのために取り組むべきことは、オペレーションにおける課題の解決です。

 

まずは、企業内の戦略がスタッフ全体に共通認識として浸透しているか、また各戦略のプロセスがスムーズに実行されているか、などを再確認する必要があります。 

例えば、人事採用、広報展開、ソーシャルメディア管理、コンテンツ測定など、さまざまなプロセスが含まれます。 

また、ここで多くの企業が取り組むべきことは、パートナーとなるチャネルを構築し、販路の拡充を図ることです。

フェーズ7:ARRを2倍の1億4,400万ドルに

フェーズ7では、ARRをフェーズ6の2倍である1億4,400万ドルを目指します。ここまでくると企業価値10億ドル、IPOが見えてくるでしょう

 

しかし、これがゴールではありません。さらなる成長を目指して、「ユニコーン企業になる」、「IPOする」という選択肢が生まれます。

 

また、このフェーズから、SaaSで重要といわれる「40%ルール(売上成長率+FCFマージンが40%を超えること)」を、新たな目標に掲げることもできるでしょう。

T2D3を実現した国内企業

T2D3を実現するための方法について解説しましたが、ここでは、実際にT2D3を達成した国内企業を2つ紹介していきます。それぞれの企業がどのようなサービスを提供しているのかなど、詳しく見ていきましょう。

株式会社SmartHR

株式会社SmartHRは、クラウド型人事労務ソフトのSmartHRを提供している企業です。SmartHRは、雇用契約や社会保険の手続きなどの人事や労務に関する面倒な手続きを簡単にできるとして、多くの企業で導入されています。その結果、労務管理クラウドサービスでは、3年連続国内シェアNO.1です。

 

株式会社プレイド

株式会社プレイドは、サイトの訪問者をリアルタイムに可視化して解析する「KARTE」というプラットフォームを提供している企業です。さまざまな行動ログから顧客一人ひとりのデータをつないで、より顧客に対しての理解を深められます。その結果、顧客ごとに最適なコミュニケーションを実現できるとして、さまざまな企業から注目を集めています。

 

T2D3を実現するためには予実管理が重要

「T2D3」を実現するために行うべきことは、目標達成額の予算と実績のプロセスを「可視化」し「分析」し「ズレを究明」し管理することです。

 

予実管理がプロセスレベルまで可視化されることで、可視化されたデータをもとに経営を行うことができ、効率的なビジネス展開が可能となります。SaaSビジネスの成長戦略に欠かせない、予実管理を詳しく見ていきましょう。

予実管理とは

予実管理とは、「予算」と「実績」を数値で管理することを指します。予算管理と違う点は、予算と実績との間で生じた差異を可視化するだけでなく、予算に達成出来なかった理由、実績を向上させるためには何をすればいいのか、などの分析を行い、生じたズレを究明解決することです。

 

予実管理を行うことで、予算に対して実績の推移が常に確認できるので、 状況に応じて早い段階で事業戦略の軌道修正を図ることができます。

 

予実管理が重要な理由

予実管理は、予算と実績の乖離を定量化することができます。つまり、予算に対してどの程度の実績をあげているのかを可視化することで、改善策を見出すことができるのです。

 

定量化すると、予算と実績がどの程度離れているかを適切に見極められ、また、データ分析から企業の課題も把握可能です。目標達成に向けた改善対策も常時柔軟に実行できるようになります。

 

その結果、企業の目標達成の確率を高めることにつながるでしょう。

予実管理にはScale Cloud

予実管理を行うなら、「Scale Cloud」をぜひご利用ください。Scale Cloudは、日々のデータから経営の現状を正確に把握し、分析することで的確かつ迅速な経営判断と実行を可能にしてくれるツールです。

 

データの一元管理が可能

Scale Cloudは、経営に必要な情報を自動的に集めて分析し、また経営判断を行うために必要な情報が、いつでも分かりやすく経営者の手元に一元管理できる状態に最適化してくれます。

 

それによって、経営側とビジネスサイド側が全社的に共通の認識をもって意思決定を行うことが可能です。具体的には、部署ごとでバラバラに管理しているKPIデータや財務データを、Scale Cloudで統一フォーマットすることにより、自動的にデータの集約、統合が最適化されます。

 

予実のズレを把握しやすい

Scale Cloudは売上や費用をKPIとロジックツリーで構造分解し、利益につながる業務プロセスをKPIで可視化、さらにフォーマット化してくれます。

 

そのフォーマットに基づきデータを集約・統合し分析することで、「利益を上げるためにはどのKPIが重要なのか」「いまどのKPIに問題があるのか」「他社と比べてどのKPIに競争優位性があってどのKPIが課題なのか」など、全ての業務プロセスの可視化が可能です。

 

それにより、「予実のズレ」を即座に把握でき、ズレの原因を的確に対処できます。

直感操作で社内での運用も簡単

Scale Cloudは、財務情報としての会計と非財務情報としてのKPIを統合して一元管理できます。

 

そのため、財務分析や簿記といった専門的な知識がなくても、データを直感的に理解できます。ツールを活用するための研修や教育の手間がないので、導入も簡単です。

まとめ

「T2D3」は、「 ビジネスの潜在的な成功を測定する」一つの目安指標として使われています。肝心なのはあくまで目安であって、T2D3を達成できないからといってSaaS企業として失敗しているわけでは決してありません。

 

ビジネス戦略としてT2D3を目標に掲げることが最適かどうかをきちんと分析した上で、導入を検討しましょう。

 

大切なのは、ビジネスの全体像を俯瞰的に見ることです。最適な成功戦略を立てるためのツールとして、Scale Couldの導入をご検討ください。

また、T2D3以外にも重要な指標はいくつもあります。下記資料にまとめているので、参考にしてみてください。

 

 

監修者

広瀬好伸
株式会社ビーワンカレッジ 代表取締役社長

プロフィール

京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。

公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。

成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。

講演実績

株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。

論文

『経営指標とKPI の融合による意思決定と行動の全体最適化』(人工知能学会 知識流通ネットワーク研究会)

特許

「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)

アクセラレーションプログラム

OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。

取材実績

日本経済新聞、日経産業新聞、フジサンケイビジネスアイ、週刊ダイヤモンド、Startup Times、KANSAI STARTUP NEWSなど。

著書

『飲食店経営成功バイブル 1店舗から多店舗展開 23の失敗事例から学ぶ「お金」の壁の乗り越え方』(合同フォレスト)

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