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SaaSの主要KPI【チャーンレート】

2021.07.07
SaaSの主要KPI【チャーンレート】

チャーンレートとは

チャーンレートとは

チャーンレート(Churn Rate)は、「解約率」「顧客離脱率」を意味しています。

普段「チャーン(Churn)」と略されて使われることもあります。

 

SaaSは売り切りのパッケージ(オンプレ)とは異なって、導入が決まってからが勝負です。

なぜなら、(例外もありますが)導入時点では顧客獲得コストが回収できず、長く使ってもらえることで初めて顧客獲得コストが回収できて利益が出るビジネスモデルだからです。

そのため、解約率(チャーンレート)を低く抑えて、顧客に長く使ってもらう必要があります。

 

そういった理由もあって、チャーンレートは SaaS ビジネスの根幹となる重要な指標であり、投資家からも必ずといっていいほど聞かれるKPIです。

 

ただ、このチャーンレート、一見簡単に見えますが、いくつかの種類があって会話の混乱のもとになりがちです。

自社はどの種類のチャーンレートを KPI として採用すべきかは慎重に検討して決めるべきです。

 

チャーンレートの種類

チャーンレートは、大きく分けて2種類あります。

 

Customer Churn Rate (カスタマーチャーンレート)

顧客数ベースの解約率です。

 

Revenue Churn Rate (レベニューチャーンレート)

収益ベースの解約率です。

Dollar Churn Rate と言われることもあります。

 

Customer Churn と Revenue Churn は両方とも計測しておくべきKPIです。

ただ、どちらをメインの KPIにするかは、事業内容や事業ステージによって異なってくるでしょう。

たとえば、アーリーステージで単一の料金プランで展開している場合はCustomer Churn Rateをメインとして、それ以降、複数の料金プランで事業拡大していくステージにおいてはRevenue Churn Rate をメインにするといったことが考えられます。

また、顧客企業の中で、何ユーザーがIDを持っているかで料金が大きく変わるSaaSにとっては、Customer Churn Rateに比べてRevenue Churn Rateの重要性はより高いでしょう。

 

Customer Churn Rate と Revenue Churn Rate はそれぞれさらに2種類ずつに細分化されます。

 

Customer Churn Rate

Customer Churn Rate

ライセンス数やユーザー数をベースとしたチャーンレート

 

Account Churn Rate

会社数や契約者数をベースとしたチャーンレート

 

Revenue Churn Rate

Gross Revenue Churn Rate

解約や Contraction(ダウングレードなど) などによって失った金額をベースとしたチャーンレート

 

Net Revenue Churn Rate

解約や Contraction(ダウングレードなど) などによって失った金額と、Expansion(アップグレードなど)によって拡大した金額を合わせたチャーンレート

 

チャーンレートの計算式

一般的な計算式

では、合計4種類のチャーンレートのそれぞれについて計算式を確認してみましょう。

なお、以下では、すべて月ベースでの計算式にしていますが、週ベースで計算するのであれば分母分子の両方を週のものにしてください。

 

Customer Churn Rate

Customer Churn Rate

カスタマーチャーンレート = 当月の解約顧客数 ÷ 前月末の顧客数 × 100

ここでの顧客数はライセンス数やユーザー数を意味しており、カスタマーチャーンレートは、このライセンス数やユーザー数をベースとしたチャーンレートです。

全体のライセンス数やユーザー数のうち、一定期間内でサービスを解約した率を表します。

 

たとえば、前月末時点のライセンス数が 100 だったとして、当月 2 ライセンスが解約となった場合、今月のカスタマーチャーンレートは2%( = 2 ÷ 100 × 100 )  となります。

 

カスタマーチャーンレートは、顧客数がベースとなるため、常にプラス値になります。

 

Account Churn Rate

アカウントチャーンレート = 当月の解約顧客数 ÷ 前月末の顧客数 × 100

ここでの顧客数は会社数や契約者数を意味しており、アカウントチャーンレートは、この会社数や契約者数をベースとしたチャーンレートです。

全体の会社数や契約者数のうち、一定期間内でサービスを解約した率を表します。

 

たとえば、前月末時点の会社数が 100 だったとして、当月 2 社が解約となった場合、今月のアカウントチャーンレートは 2 %( = 2 ÷ 100 × 100 )  となります。

アカウントチャーンレートも、顧客数がベースとなるため、常にプラス値になります。

 

Revenue Churn Rate

Gross Revenue Churn Rate

グロスレベニューチャーンレート = ( 当月の Churn MRR + 当月の  Contraction MRR )÷ 前月末のMRR × 100

 

グロスレベニューチャーンレートは、MRRをベースとした解約率です。

当月の解約やプラン変更によるダウングレードなどによって発生した MRR の減少分を、前月末時点での MRR で除して計算します。

収益ベースなので、業績へのインパクトという点では、カスタマーチャーンレートよりも実態に近いでしょう。

 

たとえば、前月末の MRR が 100 万円だったとして、当月、解約による MRR の減少が 3 万円、ダウングレードによる MRR の減少が 1 万円発生したとすると、グロスレベニューチャーンレートは 4 %( = 4 ÷ 100 × 100 ) となります。

グロスレベニューチャーンレートも、常にプラス値になります。

 

Net Revenue Churn Rate

 

ネットレベニューチャーンレート = ( 当月の Churn MRR + 当月の  Contraction MRR ー 当月のExpantion MRR )÷ 前月末のMRR × 100

 

ネットレベニューチャーンレートも、MRRをベースとした解約率です。

グロスレベニューチャーンレートとの違いは、既存顧客の解約やダウングレードだけでなく、アップグレードも加味するという点です。

当月の解約やプラン変更によるダウングレードなどによって減少した MRR からアップグレードなどによって増加したMRRを差し引き、前月末時点での MRR で除して計算します。

 

たとえば、前月末時点の MRR が 100 万円だったとして、当月、解約による MRR の減少が 3 万円、ダウングレードによる MRR の減少が 1 万円、アップグレードによる MRR の増加が 5 万円発生したとすると、ネットレベニューチャーンレートは△ 1 %( = ( 3 + 1 – 5) ÷ 100 × 100 ) となります。

この場合、解約やダウングレードは発生しているが、それを上回るアップグレードを実現できているので、MRR が 1 %増加しているということになります。

 

ネットレベニューチャーンレートは、解約やダウングレードよりもアップグレードが上回れば、マイナス値にもなることもあります。

このマイナス値になる状態をネガティブチャーンと言います。

 

より精緻な計算式

たとえば、このようなケースを考えてみます。

 

契約後、翌月に解約される率が 20 %で、その翌月以降に解約される率は 5 %で横ばいだったとします。

 

1月に新規契約が1,000社あり、既存契約2,000社と合わせて、1月末の顧客数は3,000社だったとします。

2月は、1月新規1,000社のうち 20 %の 200 社が解約になり、かつ、1月既存 2,000 社のうち 5 %の 100 社が解約になったので、合計 300 社の解約が発生したとします。また、2月の新規契約は 1,500 社あり、2月末の顧客数は 4,200 社( = 3,000 – 200 – 100 + 1,500 )だったとします。

 

ここで、一般的なチャーンレートの計算式に当てはめると、

 

2月のチャーンレート = ( 200 + 100 ) ÷ 1月末顧客数 3,000 × 100 = 10.0%

 

になります。

次に、3月は、2月新規 1,500 社のうち 20 %の 300 社が解約になり、かつ、2月既存 2,700 社( = 2月末顧客数 4,200 – 2月新規 1,500)のうち 5 %の 135 社が解約になったので、合計 435 社の解約が発生したとします。また、3月の新規契約は 1,700 社あり、3月末の顧客数は 5,465 社( = 4,200 – 300 – 135 + 1,700 ) だったとします。

 

ここで、一般的なチャーンレートの計算式に当てはめると、

 

3月のチャーンレート = ( 300 + 135 ) ÷ 2月末顧客数 4,200 × 100 = 10.4%

 

になります。

 

2月も3月も「契約後、翌月に解約される率が 20 %で、その翌月以降に解約される率は 5 %で横ばい」という点では同じであるにもかかわらず、チャーンレートが悪化したという結果になっています。

 

このように、契約後、平均的な確率で解約が発生するのではなく、契約当初とそれ以後では解約率が大きく異なるようなケースにおいては、一般的な計算式に当てはめてチャーンレートを計算すると誤った意思決定を導いてしまうかもしれません。

 

このような場合は、たとえば、契約月から起算して、1ヶ月目の解約率、2ヶ月目の解約率、3月目以降の解約率など、経過月ごとの解約率の推移をモニタリングしていく方がより意思決定には役立つでしょう。

 

また、別のケースを考えてみましょう。

 

1月末のユーザーが 1,000 人で、2月に新規ユーザーを 400 人獲得し、一方、1月末ユーザーの 10 %である 100人 と、2月に新規ユーザーになってすぐに2月中に解約になってしまった 10 人( = 400人 × 2.5 % )の合計 110 人が解約になったとします。その結果、2月末のユーザーは 1,290( = 1,000 + 400 – 110 )です。

 

ここで、一般的なチャーンレートの計算式に当てはめると、

 

2月のチャーンレート = ( 100 + 10 ) ÷ 1月末ユーザー 1,000 × 100 = 11.0 %

 

になります。

次に、2月末のユーザーが 1,290 人で、3月に新規ユーザーを 400 人獲得し、一方、2月末ユーザーの 10 %である 129 人 と、3月に新規ユーザーになってすぐに3月中に解約になってしまった 10 人( = 400人 × 2.5 % )の合計 139 人が解約になったとします。その結果、3月末のユーザーは 1,551( = 1,290 + 400 – 139 )です。

 

ここで、一般的なチャーンレートの計算式に当てはめると、

 

3月のチャーンレート = ( 129 + 10 ) ÷ 2月末ユーザー 1,290 × 100 = 10.7 %

 

になります。

 

2月も3月も既存ユーザーの解約率 2.5 %と新規ユーザーの解約率 10 %は同じであるにもかかわらず、チャーンレートが改善したという結果になってしまいます。

 

このように、新規ユーザーの獲得と、それに対する解約が、同月内に発生するようなケースも、一般的な計算式に当てはめてチャーンレートを計算すると誤った意思決定を導いてしまうかもしれません。

 

このようなケースは、毎日チャーンレートを計算して、それを月次で合計すれば、毎月のチャーンレートはより正確に計算できます。

ただ、これではとても面倒です。

もう一つの解決方法は、平均的に発生したと仮定して計算する方法です。

 

たとえば、1月末のユーザー数が1,000人で、2月末のユーザー数が 1,290 人なので、2月のユーザー数は平均的に 1,145 人( =( 1,000 + 1,290 )÷ 2 )いたという概算になります。

一方、2月の解約 110 人も日々平均的に発生していたと仮定すると、

 

2月のチャーンレート = 110 ÷ 1,145 × 100 = 9.6 %

 

となります。

次に、2月末のユーザー数が 1,290 人で、3月末のユーザー数が 1,551 人なので、3月のユーザー数は平均的に 1,420 人( =( 1,290 + 1,551 )÷ 2 )いたという概算になります。

一方、3月の解約 139 人も日々平均的に発生していたと仮定すると、

 

3月のチャーンレート = 139 ÷ 1,420 × 100 = 9.7%

 

となります。

 

このように計算することで、一般的な計算式に当てはめてみるよりも、2月と3月でチャーンレートに差が出にくいことがわかります。

 

以上のように、さまざまなケースが考えられるので、一般的な計算式を鵜呑みにせずに、どういった計算式でチャーンレートを計算するのが自社にとって最適なのかをしっかりと検討することが重要です。

 

月次チャーンレートと年次チャーンレート

月次チャーンレートと年次チャーンレートの関係性について少しだけ触れたいと思います。

 

月次チャーンレートが1%だとして、それが12ヶ月続いたとしたら、年次チャーンレートは12%( = 1 % × 12 ヶ月)になるわけではない、ということです。

 

次の表に示したのが、月次チャーンレートと年次チャーンレートで等価な数値を表すものです。

つまり、各月次チャーンレートが12ヶ月続いた場合に、年次チャーンレートが幾つになるかを計算したものが次の表になります。

 

月次チャーン 年次チャーン
0.10% 1.19%
0.30% 3.54%
0.50% 5.84%
1.00% 11.36%
1.50% 16.59%
2.00% 21.53%
2.50% 26.20%
3.00% 30.62%
3.50% 34.79%
4.00% 38.73%
4.50% 42.45%
5.00% 45.96%
6.00% 52.41%
7.00% 58.14%
8.00% 63.23%
9.00% 67.75%
10.00% 71.76%

 

細かい点かもしれませんが、月次チャーンレートと年次チャーンレートを混同しないように注意しましょう。

 

チャーンレートの目安

SaaSが対象とする企業規模によってチャーンレートは異なると言われています。

 

出典:https://tomtunguz.com/saas-innovators-dilemma/

 

これによると、SMBを対象とするSaaSのカスタマーチャーンレートは月次で3%から7%、年次で31%から58%が提示されています。

同様に、Mid-Maketでは月次で1%から2%、年次で11%から22%とされており、Enterpraiseでは月次で0.5%から1%、年次で6%から10%とされています。

 

これをそのままベンチマークとして使用する必要はないかと思いますが、この表から学ぶべきこととすれば、ターゲットの企業規模が大きくなればなるほど、チャーンレートは低く抑えるべきということでしょう。

 

企業規模が大きくなればなるほど、導入に際しては、適切な評価プロセスを経て、その企業のニーズにフィットするかどうかをしっかり事前に検証されますし、導入に伴って、データ移行・各種設定・社内の運用ルールの改定や徹底などにコストがかかる(スイッチングコストが高い)こともあって、一度導入されれば解約されることが少ないと言えます。

しかし、受注までのリードタイムが長く、その結果、顧客獲得コストも高くなりがちなので、チャーンレートを低く抑えないと顧客獲得コストを回収しきれないうちに解約になってしまうということにもなりかねません。

 

一方、企業規模が小さくなればなるほど、受注までのリードタイムは短く、その結果、顧客獲得コストも低くなりがちですが、その反面、① 利用人数が少ないために解約のハードルが低い(逆に導入のハードルが低いとも言える)、② 導入コスト(スイッチングコスト)が企業規模の大きな会社に比べて低い、③ 導入に際しての評価プロセスが整備されていないために導入後にフィットしない要因が見つかりやすい、④ 倒産確率も高い、といったこともあって、チャーンレートは高くなりがちです。

 

ちなみに、レベニューチャーンレートは、カスタマーチャーンレートより低い方が望ましいでしょう。

たとえば、SMBからEnterpriseまでを広くカバーするSaaSの場合、SMBの解約が多くなることでカスタマーチャーンレートは高くなりがちですが、収益の中心であるEnterpriseがの解約率が低ければ、カスタマーチャーンレートよりレベニューチャーンレートが低いという現象が起きますが、これは、収益面ではまだ健全と言えます。

 

なお、ユニットエコノミクスのパラメーターにも使われているカスタマーチャーンレートは、一般的には月間1%から3%が優良とされています。

 

しかし、チャーンレートの目安を一概に決めることは難しく(当然、低いにこしたことはないですが)、チャーンレートを一面的に捉えるのではなく、新規顧客の獲得、既存顧客へのアップセルやクロスセル、既存顧客のダウングレードの抑制、顧客獲得コストの抑制などを含めた多面的にバランスをとりながら、自社の現状や今後のロードマップに最適なチャーンレートを検討すべきでしょう。

 

なお、参考までに日本で上場しているSssS企業で、月次チャーンレートを公開している数値を調査した結果(一部、詳細が把握しきれないところについては予想を含む)は次の通りでした。

 

  • カスタマーチャーンレートを公開している企業4社のレンジは0.31%〜1.69%で、平均値は0.94%。
  • グロスチャーンレートを公開している企業7社のレンジは0.16%〜1.6%で、平均値は0.80%。

 

チャーンレートの重要性

チャーンレートが重要な理由はたくさんありますが、ここでは2点、取り上げたいと思います。

 

  1. そのSaaSが顧客にとってどれくらい重要なのかを測る1つのモノサシになる
  2. そのSaaSが継続的に成長できるかを測る1つのモノサシになる

 

01については、そのSaaSを継続して使うということは、そのSaaSが顧客の課題を解決していてニーズにマッチしているということを意味します。

見方を変えれば、そのSaaSに中毒性があるかどうかを測るKPIだとも言えます。

 

02については、たとえば次のようなケースを考えてみましょう。

 

毎月10の新規顧客獲得を60ヶ月続けた場合の、各チャーンレートごとの顧客数の推移を表したものが以下のグラフです。

 

新規顧客獲得を一定とした場合、このグラフの通り、顧客数の増え方はチャーンレート(この場合はカスタマーチャーンレート)によって大きく異なります。

 

このシミュレーションでは、5年後の顧客数を比較すれば、チャーンレート0%の場合は600、チャーンレート1%の場合は452、チャーンレート3%の場合は279、チャーンレート5%の場合は190となっています。

つまり、単純比較にはなりますが、チャーンレート0%と5%では約3倍の差が出てくる計算になります。

 

当然、チャーンレートが高いほど、顧客数の成長はスローダウンしていきます。

そのため、チャーンレートが高い場合、MRR・ARRを成長させるためには、より多くの新規顧客を獲得したり、アップセルやクロスセルによって既存顧客からの売上を拡大するなどの対策が必要になります。

 

「順調にMRRが伸びていったけど、最近なかなか伸びないので、思い切ってマーケティング費用を投下する」というような話はよくあります。

ここで注意が必要なのは、先ほどのグラフのように、解約率が上昇していることで成長が鈍化してしまっていないかということです。

その状態でマーケティング費用を大きく投下するという判断の是非はどうでしょうか。

 

一般的に、新規顧客の獲得コストは、既存顧客の維持コストの5倍から25倍高いと言われていて、既存顧客の維持(=チャーンレートが低い状態)よりも、新規顧客の獲得に依存した状態を続けるとコスト高になってしまい、事業の成長が止まってしまう、または、多額の資金が必要になってしまう可能性が高くなります。

そうなってしまうと、ビジネスとして成立しなくなる可能性が高くなります。

 

逆に、顧客数が少なくてもチャーンレートが低ければ、今後、その事業は伸びる可能性があります。

 

「新規顧客獲得を一定としているけどそれは実態に合わない」という指摘もあると思いますが、「新規顧客獲得を一定数ではなく、一定の成長率にする」「新規顧客獲得を一定数ではなく、加速し続ける」と仮定する方が難易度が高いので、それに比べると、この前提は成長速度をコンサバに見た場合として、一定の示唆を得られるものだと思います。

なお、ユーザー数やデータ量などに応じて既存顧客から継続的にアップセルを見込める場合には当てはまりません。

その場合は、カスタマーチャーンレートを既存顧客へのネットレベニューチャーンレートに読み替えていただければと思います。

 

いずれにしても、「解約率は成長のスピードを決める」とよくSaaSの世界で言われますが、成長のスピードどころか「解約率は成長の上限を決める」ということには変わりはないと思います。

 

チャーンレートの改善

 一般的な施策

まずは、チャーンレートを改善するための一般的な施策について考えてみましょう。

 

 

料金体系の見直しをする

 

料金は、ユーザーが最も気にするポイントの1つです。

高いと感じた瞬間から、急に解約する可能性が高まります。

 

その瞬間はどういう時に起こるかはさまざまでしょう。

ふとした瞬間にコスパが高いなとなんとなく感じた、というようなこともあるでしょうし、たまたま競合他社と比較する機会があって料金の高さを感じた、ということもあるでしょう。

 

  • 単一の月額プランだけではなく月額費用を抑えた長期プランを用意する
  • 利用量に応じて課金される従量制プランにする
  • 企業規模やニーズといった顧客属性に分けて料金プランを複数用意する

 

など、料金体系を見直してみるというのはどうでしょうか。

 

諸刃の剣になる可能性もあれば、大きな成果をあげられる可能性もあります。

手間とリスクは伴いますが、検討する価値は大きいでしょう。

 

既存機能の活用方法を伝える

SaaSが持っている機能をそもそも顧客が知らないケースは多いです。

それらを顧客にわかりやすく伝えることは有効でしょう。

 

また、SaaSが持っている機能について、顧客が知っているけれども使いきれていないケースも多いでしょう。

顧客の状況に応じて、具体的な活用方法を提案することの効果は大きいでしょう。

 

  • 顧客が自ら課題を解決できるようなヘルプページを準備する
  • 機能の使い方を動画でまとめる
  • ユーザー会を開催して活用ノウハウのシェアを行う
  • チュートリアル機能を実装する

 

といった施策が考えられるでしょう。

 

カスタマーサクセスを強化する

SaaS業界ではもはや常識化されつつあるカスタマーサクセス。

このカスタマーサクセスチームがない場合はそれを立ち上げる、ある場合は強化するという施策が考えられます。

カスタマーサクセスは、顧客からの要望に受動的に対応するだけではなく、その名の通り、「顧客の成功」に向けて、能動的に顧客に対して働きかけます。

 

サービス設計を見直す

顧客が、これまで使っていた機能に飽きてしまうといったことで、サービスの利用頻度が下がってしまうと解約される可能性が高まります。

 

  • 機能別の顧客の利用状況を調べる
  • 解約されるサービスの種類と顧客の規模や業種などの属性の関係を調べる

 

ということによって、中小企業が解約しがちなサービス、大企業ではあまり使われていない機能などが明らかになり、それらを踏まえてサービス設計・開発することで、チャーンレートを改善することも可能でしょう。

 

合わせて、競合他社のサービスや機能を常にモニタリングして、サービス設計・開発に活かすことは言うまでもありません。

 

コホート分析

以上は一般的な話でしたが、より自社の実情に沿ってチャーンレートを改善するためには、コホート別のチャーンレートを分析してみましょう。

 

「2 チャーンレートの計算式」で書いた通り、一般的な計算式に当てはめてチャーンレートを計算するとミスリードになってしまうケースも多々ありますし、そもそも業界やサービス、ターゲット顧客、企業の成長ステージなどによって、チャーンレートは大きく変わるため、「3 チャーンレートの目安」で書いた通り、一般的な目安や他社との比較は注意が必要です。

 

そこで、オススメなのがコホート分析です。

 

顧客を新規契約月別のコーホートに分けて、新規契約時から時間が経つにつれて、各コホート別に、それぞれのチャーンレートが改善しているかどうかを継続的にチェックする分析です。

 

たとえば、プロダクトのリニューアル前に新規契約した顧客の毎月のチャーンレートの推移が、新規契約後1ヶ月目5%、2ヶ月目3%、3ヶ月目3%だったものが、プロダクトのリニューアル以降は1ヶ月目3%、2ヶ月目1%、3ヶ月目1%になったとすると、リニューアルによってビジネスが改善されている可能性が高いと言えます。

 

たとえば、プロダクトは変わらないものの、値引きなどのインセンティブを武器にしたアグレッシブな営業や強引な営業手法によって新規契約を伸ばした月のコホートについては、チャーンレートが高いといったことが発見できることもあります。

 

たとえば、マーケティングチャネルがインバウンド中心だった月の解約率の推移が、アウトバウンド中心に変えた月から解約率の推移が悪化したという場合は、マーケティングチャネルごとの巧拙やそのプロセスに問題があるかもしれません。

 

たとえば、月別のコホートの推移を見ていったときに、解約率が上がり続けるのではなく、早い段階で解約率の上昇がストップする(解約率の推移がフラットになる)ような状況になれば、PMFが達成したとする1つの目安になるかもしれません。

 

チャーンレートは、一般的に、最初の更新時(たとえば、1年契約であれば新規契約から1年後の契約更新時、1ヶ月契約であれば新規契約から1ヶ月後の契約更新時など)までの間が最も高くなりがちで、その後はそれよりも低い水準に落ち着くことが多いです。

 

最初の更新時までの解約は、営業の仕方やコミュニケーションの取り方、導入における課題やニーズのミスマッチなどが原因であることが多いかもしれません。

一方、最初の更新時以降の解約は、契約後のサポート体制(カスタマーサクセスやカスタマーサポート)の実力値が数値に表れやすいでしょう。

また、SaaS事業においては、モニタリングするべきKPIがある程度科学されています。

主要なKPIを網羅的にまとめてありますので、ぜひ下記の資料も参考にしてください。

 

 

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執筆者

広瀬好伸
株式会社ビーワンカレッジ 代表取締役社長

プロフィール

京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。

公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。

成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。

講演実績

株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。

論文

『経営指標とKPI の融合による意思決定と行動の全体最適化』(人工知能学会 知識流通ネットワーク研究会)

特許

「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)

アクセラレーションプログラム

OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。

取材実績

日本経済新聞、日経産業新聞、フジサンケイビジネスアイ、週刊ダイヤモンド、Startup Times、KANSAI STARTUP NEWSなど。

著書

『飲食店経営成功バイブル 1店舗から多店舗展開 23の失敗事例から学ぶ「お金」の壁の乗り越え方』(合同フォレスト)

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