Blog
記事・ブログ

SaaSの主要KPI【LTV】

2021.07.12
SaaSの主要KPI【LTV】

LTVとは

LTVは、Life Time Valueの略で、日本語では「生涯価値」です。

Customer Lifetime Valueと言われることもあり、その場合はCLTVと略されたりしますが、日本語では「顧客生涯価値」です。

SaaS業界では、LTVを顧客生涯価値と呼んだりすることもあるので、ここではLTV=顧客生涯価値という意味合いで記載していきたいと思います。

 

顧客生涯価値は、顧客がSaaS企業にもたらす利益が生涯どれくらいあるのかを計算したもので、 SaaS企業にとってその顧客がどれほど貢献してくれるのかを示すKPIです。

つまり、顧客がSaaSの契約をしてから解約するまでに、そのSaaSに支払ってくれると予測される金額のことです。

このように、LTVは取引ベースの考え方に沿っており、SaaSビジネスのようにリピートするビジネスモデルの長期的な価値を示すのに役立ちます。

 

LTVの計算式

たとえば、そのSaaSが月額10,000円で、顧客が12ヶ月間利用したとすると、その顧客のLTVは 120,000円(= 10,000 × 12 )になります。

1人の顧客に対して計算するのであればこれでいいですが、実際には複数の顧客がいる場合にはこのように単純にはいきません。

 

LTVの一般的な計算式は次のとおりです。

 

LTV = 顧客の平均単価 × 平均顧客寿命

 

この平均顧客寿命(Average Customer Lifetime)は、次のように計算できます。

 

平均顧客寿命 = 1 ÷ チャーンレート

 

これを先ほどの計算式に当てはめると、

 

LTV = 顧客の平均単価 × ( 1 ÷ チャーンレート )

LTV = 顧客の平均単価 ÷ チャーンレート

 

になります。

 

これは、チャーンレートがわかれば、顧客の平均的な利用期間がわかるということなのですが、注意点があります。

 

この計算は、「解約率が一定であるという仮定」が置かれているということです。

しかし、実際の解約率は、SaaSビジネスを開始した直後は高くなりやすく、また、この計算では全顧客の平均的なチャーンレートを採用していますが、この時期は特に、平均的な顧客の定着具合がまちまちになりやすく、チャーンレートの意味をなさないケースも多いです。

 

また、チャーンレートは、契約当初の方が高くなりやすく、長く使っていると低くなりがちです。

つまり、SaaS利用後に何かしらのミスフィットな点が見つかって、利用を継続しなくなるケースが多く、一定期間、利用が続いた顧客のみで見るとチャーンレートは相対的に低くなる傾向にあります。

そして、一定期間利用した顧客の割合が高くなる(=全顧客の中で新規顧客の割合が減る)につれて、チャーンレートは次第に下がっていく傾向にあります。

この点を考慮すれば、LTVが上昇しているからといって、単純にそのSaaSのアップサイドが測れるというわけでもありません。

 

つまり、この計算式では、一般的には、LTVが過小評される傾向にあることに留意すべきでしょう。

 

しかし、LTVがSaaSビジネスの中心的なKPIであることには変わりはありません。

 

では次に、チャーンレートがどのチャーンレートを指すのかについて考えてみましょう。

 

チャーンレートは、SaaSの主要KPI【チャーンレート】でも書いたとおり、大きく分けて次の2種類あります。

 

Customer Churn Rate (カスタマーチャーンレート)

 

顧客数ベースの解約率です。

前月契約していた顧客が、当月どれくらい減ったかを意味します。

 

Revenue Churn Rate (レベニューチャーンレート)

 

収益ベースの解約率です。

前月契約していた顧客のMRRが、当月どれくらい減ったかを意味します。

 

大きな違いは、カスタマーチャーンレートであれば顧客単価の上昇を織り込めないですが、レベニューチャーンレートであれば顧客単価の上昇も織り込むことができます。

 

ですので、

 

LTV = 顧客の平均単価 ÷ チャーンレート

 

で計算する場合のチャーンレートは、レベニューチャーンレートの方が理想的です。

 

しかし、実務的には、レベニューチャーンレートが非常に小さい数字になることもあります。

特に、ネットレベニューチャーンレートであればマイナス値になることもあります。

マイナス値のチャーンレートを先ほどの計算式に当てはめると、LTVもマイナスになってしまいます。

また、チャーンレートがほぼゼロに近い場合、LTVはとても大きな数値になってしまいます。

 

つまり、レベニューチャーンレートが非常に小さくて、それをもとに計算するとLTVが異常値になってしまう場合は、先ほど記載したとおりLTVが過小評価される(保守的な計算結果になる)ことを踏まえた上でカスタマーチャーンレートを使用すると良いかもしれません。

 

では次に、顧客の平均単価を何で計算するかです。

選択肢としては次の3つでしょう。

 

  • ARPU(ユーザー平均単価)
  • ARPA(アカウント平均単価)
  • ARPPU(課金ユーザー平均単価)

 

ARPU・ARPPUを使うか、ARPAを使うかは、その企業がユーザーごとの単価を重視しているのか、それともアカウントごとの単価を重視しているのかによります。

また、ARPUを使うか、ARPPUを使うかは、無料の利用者を含める(ARPU)のか、無料の利用者を含めずに有料の利用者に限定する(ARPPU)のかによります。

 

どれを採用するかは、そのSaaSの特性や企業の方針によって決めるべきですが、決めたものについては、MRR、CAC、チャーンレートなど、そのほかのKPIの計算においても同様の単価を使用すべきです。

 

では最後に、顧客の平均単価は、売上ベースにするか、利益ベースにするかという点です。

 

これまでは売上ベースにした計算式について書いてきました。

しかし、売上ベースで計算したLTVでユニットエコノミクス( = LTV ÷ CAC )を計算するのは避けた方がいいでしょう。

たとえば、利益率10%のSaaSと、利益率30%のSaaSがあったとして、両者のROIは全く異なるのに、売上ベースで計算したLTVは同じになってしまいます。

 

では、顧客の平均単価を利益ベースで計算するとして、この「利益」はどういった利益を指すのでしょうか。

 

一般的には「粗利」を指します。

つまり、「 1 単位の売上に対していくらの利益が上がるのか」という意味合いです。

ここで大切になるのは、その意味合いの裏返しで、「 1 単位の売上が増えたときにどれくらいの原価が発生するのか」という点です。

 

SaaSの原価としては、一般的には、サービス運営のための費用(サーバーやカスタマーサポート・カスタマーサクセスにかかる費用)などが含まれます。

これらが売上に対して何%かを計算して粗利率を割り出します。

 

以上を踏まえると、LTVの計算式は次のようになります。

 

LTV = 顧客の平均単価 × 粗利率 ÷ チャーンレート

 

LTVが重要な理由

SaaSは、売り切り型のビジネスモデルではなく、長く使ってもらえばもらうほど利益を獲得できるビジネスモデルですので、顧客の短期的な売上だけに注目せず、長い期間継続的に利用してもらうことで長期的な売上貢献度を測ることが重要です。

 

SaaSは「単なる定額制のサービス」としての意味ではなく、「顧客が求める価値・サービスを継続的に提供して、継続的にその対価を得る」という仕組みが重要です。

顧客のことを知り、顧客のために何を提供し、どんな価値を提供することで顧客満足度を上げて、継続的に利用してもらえるのかが重要で、その結果として、SaaS企業としても売上や利益を継続的に得ることができます。

 

このように、顧客が利益をもたらし続けれくれるSaaSであるかどうかを判断するKPIの1つがLTVなので重要視されています。

 

また、SaaSビジネスでは、顧客1人1人のLTVを高めることが利益の最大化につながります。

顧客1人1人に選ばれ続けるSaaSであるためには、顧客1人1人とより良い関係性を構築・維持しながら、そのSaaSのファンになってもらい、契約を更新し続けてもらうことが必須です。

つまり、中長期的な目線で、契約後、顧客をファン化させる戦略が注目されており、その戦略の成功の可否が見えてくるKPIとしてもLTVが注目されています。

 

さらに、SaaSの重要KPIにユニットエコノミクスがありますが、これを計算する上でLTVが必要になってくるという点でもLTVは非常に重要なKPIとなっています。

LTVを高める方法

LTVを高める方法

 LTVを高める方法は、その計算式を見れば一目瞭然です。

LTV = 顧客の平均単価 × 粗利率 ÷ チャーンレート

 

ですので、LTVを高める方法は、

 

  1. 顧客の平均単価を高める
  2. 粗利率を高める
  3. チャーンレートを下げる

 

の3つの方向性が考えられます。

 

顧客の平均単価を高める

顧客の平均単価を高める方法としては、

 

  • 段階的な料金設定にする
  • 料金を引き上げる
  • 顧客単体からの収益を拡大する
  • 顧客によって異なる料金で提案数
  • フリーミアムの提供をやめる
  • 複数の契約期間を提供する
  • より高いプランにアップグレードしてもらう
  • より安いプランへのダウングレードを防ぐ

 

といった施策が考えられますが、いずれも詳しくはSaaSの主要KPI【MRR】の「3 MRRを増やす方法」をご覧ください。

 

粗利率を高める

前述のとおり、SaaSの原価は、一般的には、サービス運営のための費用(サーバーやカスタマーサポート・カスタマーサクセスにかかる費用)などが含まれます。

これらが売上に対して何%かを計算して粗利率を割り出しますが、この粗利率を高めるのも、LTVを高める施策の1つです。

 

粗利率 = 原価 ÷ 売上

 

なので、粗利率を上げる方法としては、原価を下げるか、売上を上げるか、です。

 

売上を上げる施策については、前述の「①  顧客の平均単価を高める」を参照いただくとして、ここでは原価を下げる方法について考えてみましょう。

 

考えてみると言っても、要は、「原価を下げましょう」ということなのですが、単純に下げればいいというものでもありません。

 

原価に含まれるカスタマーサクセスにかかる費用を削減してしまえば、チャーンレートが高くなったり、顧客の平均単価が下がったりする可能性がありますので、一概に下げれば良いという話ではありません。

あくまで、削減してもマイナスの影響がないものは削減すべきですし、そうでないものは削減すべきでないかもしれません。

一方、削減すべきでないものも、深く突き詰めていけば(できる方法を考えれば)削減可能かもしれないという意味で、検討する価値はあるでしょう。

 

また、SaaSのステージによっては特段気にする必要がないものもあるでしょう。

たとえば、サーバー代の節約のために工数をかけて行動するくらいなら、ユーザーための開発をするであったり、カスタマーサポートを強化することが大事かもしれませんし、また、カスタマーサポートの原価を気にするより、逆に対応を強化して1社でも顧客のロイヤリティを高めるということの方が大事でしょう。

 

つまり、粗利率については、改善余地があるかもしれないことや、改善余地があれば場合によって改善を進めるという大枠のコンセンサスをとっておきつつ、SaaSの成長ステージが進んで、粗利率1%あたりの影響が大きくなってきてからしっかりと向き合っていくという方針でもいいでしょう。

 

チャーンレートを下げる

チャーンレートを下げる方法としては、

 

  • 料金体系に見直しをする
  • 既存機能の活用方法を伝える
  • カスタマーサクセスを強化する
  • サービス設計を見直す

 

といった施策が考えられますが、いずれも詳しくはSaaSの主要KPI【チャーンレート】の「5 チャーンレートの改善」をご覧ください。

 

いずれも、重要な施策であることは間違いないですが、これらの施策を実行する前にやるべきことがあります。

それは、顧客ロイヤリティを高めることです。

前述のような施策を小手先で対応したとしても大きな効果は期待できません。

ビジネスの本質であり基盤となる顧客ロイヤリティが高まってこそ、効果を発揮する施策です。

 

つまり、LTVを高める上で何より重要なのは、顧客ロイヤリティと言えます。

 

セグメントごとに施策を考える

先ほどまで、LTVを1つの数字としてみてきました。

これでも多くのインサイトを得られるのですが、すべての顧客が同じようにそのSaaSを利用しているわけではないですよね。

 

もっと実用的にするためには、LTVをより小さなカテゴリに分解して、そのカテゴリごとにLTVの傾向を特定できるようにすべきでしょう。

 

たとえば、複数の料金プラン(ライトプラン・スタンダードプラン・エンタープライズプランなど)を用意している場合、その料金プランを顧客セグメントとして、そのセグメントグループごとのLTVを計算してみましょう。

 

この例で言えば、低価格プランの顧客は解約率が高く、支払額が低い傾向にあり、高価格プランの顧客はより長期間利用しており、より多くの収益を上げている傾向にあることが多いです。

 

料金プランの他に、新規契約獲得のチャネル、企業規模、成長ステージ、ログイン頻度などのさまざまな属性が考えられます。

もちろん多くの属性でLTVを計算しようと思えば、データ取得などがとても大変になってしまいますが、データ取得コストよりも効果がありそうな属性があれば是非やってみることをオススメします。

 

このようにセグメントごとのLTVを把握することで、より効率的にLTVを高めることができるでしょう。