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SaaSの主要KPI【NRR】

2021.07.07
SaaSの主要KPI【NRR】

NRRとは

NRRは、Net Revenue Retention または Net Retention Rate の頭文字を取ったもので、「売上継続率」と呼ばれています。

NRRは、SaaSが、繰り返し発生する収益( MRR )をどれくらい維持しながら拡大しているかを示すKPIです。

つまり、既存顧客が、そのSaaSに支払う金額が増えたのか、それとも減ったのか、ということを示すKPIです。

このNRRから、当月に新規獲得したMRRが、翌月や翌年にどれくらいのMRRになっているか(=当月に新規獲得したMRRをどれくらい維持できているか)を予測するモノサシになるKPIです。

 

NRRの計算式

NRRは、MRRをもとに計算します。

 

まず、MRRは、次の4種類に分類されます。

 

New MRR

その月に新規獲得した新規顧客から得られるMRR

 

Expansion MRR

アップグレードなどによって前月よりも取引額が増えた既存顧客から得られるMRR

 

Contraction MRR

ダウングレードなどによって前月よりも取引額が減った既存顧客から得られるMRR

 

Churn MRR

その月にサービスを解約した既存顧客のMRR

 

これを踏まえて、NRRの計算式は次のようになります。

 

 NRR(%) = ( 月初のMRR + Expansion MRR – Contraction MRR – Churn MRR ) ÷ 月初のMRR × 100

 

では実際に次のようなケースで計算してみましょう。

 

月初の MRR 100
New MRR 10
Expansion MRR 5
Contraction MRR 3
Churn MRR 2

 

この場合、NRRは次のようになります。

 

NRR = ( 100 + 10 – 3 – 2 )÷ 100 × 100 = 105 %

 

注意点としてはNew MRRを入れないということです。

 

なお、このケースでは、月末のMRRは 110( = 100 + 10 +5 – 3 – 2 )なので、NRR 105 %をかけると約 116 になります。

つまり、新規顧客の獲得がなく(=New MRRがゼロ)現状のままいったとすると、1年後のNRRの見通しは約 116 まで増加するという予測になります。

 

もう少し具体的に、次のようなケースで計算してみましょう。

 

1月 2月 3月 4月
A社 200 220 220 240
B社 300 290 280
C社 100 110 120

 

まずは2月のNRRを計算してみます。

 

2月のNRRを計算する上で対象となるのは1月末に既存顧客であったA社とB社です。

A社とB社の1月末のMRRは 500 ( = 200 + 300)で、2月末のMRRは 510 ( = 220 + 290)なので、

 

2月のNRR = 510 ÷ 500 × 100 = 102 %

 

と計算できます。

先ほどまでの計算式と同じように計算すると、

 

2月月初の MRR 500
New MRR 100(C社)
Expansion MRR 20(A社)
Contraction MRR 10(B社)
Churn MRR 0

 

ですので、

 

2月のNRR = ( 500 + 20 – 10 – 0 )÷ 500 × 100 = 102 %

 

と、当然同じ結果になります。

 

同じように3月と4月のNRRを計算すると、

 

3月のNRR = ( 220 + 280 + 110 )÷ ( 220 + 290 + 100 )× 100 = 100 %

 

4月のNRR = ( 240 + 0 + 120 )÷ ( 220 + 280 + 110 )× 100 = 59 %

 

となります。

繰り返しになりますが、NRRの計算には、その月の新規獲得の顧客は含めません。

 

このように計算することで、NRRが、既存顧客の売上が比較時点に対してどの程度増減しているかを表すKPIであるということが理解しやすくなると思います。

 

これを一般的な計算式で表現すると次のようになります。

 

NRR(%) = 比較時点と同じ顧客の当月末のMRR ÷ 比較時点のMRR

 

NRRは、一般的には月次または年次で求められることが多いですが、任意の期間でも計算できます。

 

年次のNRRを求める場合は、

 

  1. 12ヶ月前の1ヶ月間で獲得した顧客を調べて、それらの顧客のMRR合計(☆ 1 )を計算する。
  2. 直近1ヶ月のデータにアクセスして、12ヶ月前の顧客と一致する顧客データを調べる。
  3. 一致した顧客の直近1ヶ月のMRR合計(☆ 2 )を計算する。
  4. ☆ 2 を☆ 1 で割ることで、年次のNRRを計算する。

 

といった手順になります。

 

NRRの目安

当月、新規に獲得した顧客のMRRが1,000万円だったとします。

NRRが150%の場合、新規の顧客を全く獲得できなかったとしても1年後のMRRは1,500万円になっていると予測でき、一方、NRRが50%の場合、新規の顧客が全く獲得できなければ1年後のMRRは500万円になってしまうという予測になります。

 

SaaSビジネスでは、通常、新規の顧客獲得は決して容易ではなく、かつ、顧客獲得コストも高くなりがちなので、既存顧客からの継続収入が重要な収益源になります。

 

NRR100%超を維持できていれば安定したSaaSを提供しており、ダウングレードなどのContractionや解約よりも、アップグレードなどのExpansionによるMRRの増加ペースの方が早いということを示しており、継続的な売上が見込めると予測できます。

 

また、成長率が高いSaaSほどこの数値が高くなる傾向にあり、安定した経営が行われているSaaS企業は、実際にNRRが100%以上になっていることが多いです。

 

この成長率とNRRの関係性としては、両者は密接な相関関係にあり、NRRが1%改善すれば売上成長率も1%改善します。

 

逆に、NRRが100%を下回っている場合は、Contractionや解約などによって売上を落としていることになり、NRRが低ければ低いほど、売上の成長計画を達成するために、新規の売上を多く獲得しなければならなくなります。

 

 

 

出典: 日本発の強いSaaSビジネスを作るには?SaaSビジネスモデルを7年の経験から徹底解剖

 

この2つのグラフを見比べてみてください。

新規顧客獲得数が同じとして、上のグラフがNRR120%の場合、下のグラフがNRR90%の場合の、それぞれの成長性を示しています。

上のグラフは各年度の新規獲得顧客からのMRRが順調に増加するとともに、それが毎年積み重なっていっているので美しくコホートが積み重なっていて、高い成長性が見て取れます。

一方、下のグラフは、毎年の新規顧客獲得はあるものの、各年度に獲得した新規顧客からのMRRが減少傾向にあるため、毎年の積み重ねも上のグラフほどにはならず、その成長性においても、上のグラフの半分以下になってしまっています。

 

NRRの違いがSaaSの成長率に大きく影響することをよく示しています。

また、このようなコホート分析をすることで、効率かつ健全にSaaSが成長しているかを見てとることができます。

 

では、このNRRはどれくらいの数値を目標とすべきなのでしょうか?

一般的に、NRRは100%〜115%が適切とされています。

その根拠としていくつかデータを示してみます。

 

出典:Net Dollar Retention Benchmarks

 

このグラフは、NRRを公表しているアメリカの上場SaaS企業38社の一覧です。

これら企業のNRRの中央値は117%となっており、Twilioが170%、Boxが130%、Zendeskは123%です。

約半数の企業が110%を超えるNRRを達成しており、下位2社を除く全企業のNRRが100%以上です。

 

出典: Controlling SaaS churn

 

この統計データは、同じくアメリカで上場しているSaaS企業のNRR統計です。

中央値は111%、平均値は112%となっています。

 

いずれも若干古いデータにはなりますが参考にはなるでしょう。

 

 

出典::2019 EXPANSION SAAS BENCHMARKS

 

ただし、NRRのベンチマークも、顧客セグメントごとに異なるはずです。

それを示したのがこのグラフです。

 

SMBでは、約82%から105%のレンジで、中央値は約97%です。

MidmarketとEnterpriseでは、約90%から110%のレンジで、中央値は約100%です。

 

中堅企業や大企業向けのSaaSであれば、組織の一部から使い始めて、その組織の中でどんどん広まっていって売上が上昇していく場合が多く、このようなケースではNRRは高くなりがちです。

 

一方、中小企業向けのSaaSの場合には、Expansionの余地がある程度限られてしまうので、NRRが 100%を超えることは容易でないと言われています。

ただし、中小企業向けのSaaSでは、通常、新規獲得の余地が非常に大きいという特性もあります。

 

NRRの改善

NRRを高めるには、計算式を見れば明白です。

 

 NRR(%) = ( 月初のMRR + Expansion MRR – Contraction MRR – Churn MRR ) ÷ 月初のMRR × 100

 

基本的には、既存顧客からの収益を拡大することが必要になりますが、この計算式に紐づけてもう少し分解すると次の2つになります。

1 Expansion MRR(アップセルやアップグレードなど)を増やす

2 Contraction MRR(ダウングレードなど)やChurn MRR(解約)を減らす

 

後者については、SaaSの主要KPI【チャーンレート】_チャーンレートの改善をご覧ください。

 

ここでは前者について考えてみたいと思います。

 

たとえば、このような方法が挙げられるでしょう。

 

  • プロダクトの機能追加
  • サービス内容のブラッシュアップ
  • アップセルの提案

 

もちろんこれ以外にもいろいろな方法がありますが、SaaSビジネスの場合、最終的にはカスタマーサクセスによる顧客満足度がポイントとなるでしょう。

 

よくある勘違いとしては、NRRを改善するために、営業マンがゴリゴリとアップセルやアップグレードのクロージングをするために、営業体制を強化するというケースがありますが、これは継続的な価値を生まない恐れがあります。

 

ただし、そもそもアップセルやアップグレードが可能になるような料金設計にしておく必要があります。

 

たとえば、単一プロダクトで、料金プランも単一で、ユーザーアカウント数が増えたりデータ利用量が増えたりしても料金が変わらないといった場合は、そもそもアップセルやアップグレードの余地がありません。

 

使用できる機能に差をつけてライトプラン、スタンダードプラン、エンタープライズプランといった複数の料金プランを用意するであったり、ユーザーアカウント数やデータ利用量が増えれば料金も増えるというプランを用意することで、アップグレードやアップセルが可能になります。

 

つまり、NRRはプライシングと密接な関係があり、顧客が成長することで、自社も収益が上がっていく仕組みを作り、アップセルやアップグレードしやすいビジネスモデルにすることも1つの戦略となります。

また、SaaS事業においては、モニタリングするべきKPIがある程度科学されています。

主要なKPIを網羅的にまとめてありますので、ぜひ下記の資料も参考にしてください。

 

 

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執筆者

広瀬好伸
株式会社ビーワンカレッジ 代表取締役社長

プロフィール

京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。

公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。

成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。

講演実績

株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。

論文

『経営指標とKPI の融合による意思決定と行動の全体最適化』(人工知能学会 知識流通ネットワーク研究会)

特許

「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)

アクセラレーションプログラム

OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。

取材実績

日本経済新聞、日経産業新聞、フジサンケイビジネスアイ、週刊ダイヤモンド、Startup Times、KANSAI STARTUP NEWSなど。

著書

『飲食店経営成功バイブル 1店舗から多店舗展開 23の失敗事例から学ぶ「お金」の壁の乗り越え方』(合同フォレスト)

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