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SaaSの主要KPI【ユニットエコノミクス】

2021.08.24
SaaSの主要KPI【ユニットエコノミクス】

ユニットエコノミクスとは

ユニットエコノミクス(Unit Economics)とは、ユニット単位で事業の経済性を測定する指標です。

ユニットの単位は、顧客、製品、店舗など、自由に設定できます。

 

SaaSビジネスでは、ユニット単位を顧客に設定することが多く、1顧客をモデルとして、「1顧客あたりの経済性(または採算性)」を示すKPIです。

 

ユニットエコノミクスは、1顧客から得られる収益と、1顧客獲得にかかる費用から計算します。

たとえば、顧客数が増えていても、顧客獲得コストがそれ以上に増えてしまっていれば採算性は下がります。

 

ユニットエコノミクスを用いれば、1顧客あたりの経済性が数値として見えるため、もっとコストを投下してでも顧客数を増やすべきなのか、それとも収益性の改善が必要なのかといった経営判断がしやすくなります。

 

ユニットエコノミクスが適正であれば、顧客獲得にかけるコストと、顧客獲得後の収益のバランスが取れていて、事業として健全な状態であると言えます。

そのバランスが取れていれば、どれくらいの投資をすればどういったリターンを得ることができるのかという点で将来的な成長性も推測しやすいことから、投資家の投資判断材料としても使われています。

 

ユニットエコノミクスの計算式

ユニットエコノミクスの計算式は次のとおりです。

 

ユニットエコノミクス = LTV(顧客生涯価値) ÷ CAC(顧客獲得単価)

 

ここに出てくるLTVとCACについては、詳しくは以下をご覧ください。

SaaSの主要KPI【LTV】

SaaSの主要KPI【CAC】

 

ユニットエコノミクスの目安

ユニットエコノミクスの目安

次の式をみてください。

 

LTV − CAC > 0  または  LTV > CAC

 

この関係性が成り立っているのであれば、1顧客から得られる収益がその獲得コストを上回っているので、ユニットエコノミクスは健全な状態であるとも言えます。

このように、LTVがCACを上回るのであれば、顧客を獲得すればするほど、SaaS企業にとっては中長期的にはプラスになると言えるので、可能な限り多くの新規顧客を獲得するために成長投資をしていけば良いというのがユニットエコノミクスの考え方です。

 

ただし、実際にSaaSビジネスを運営するにあたっては、CAC以外にも、プロダクトの開発コスト(R&D)、経営管理のコスト(G&A)などのコストがかかります。

そのため、ユニットエコノミクスは、ただ、LTVがCACを上回れば良いというのではなく、次の関係性が成り立つことが望ましいと言われています。

 

ユニットエコノミクス > 3

 

つまり、「LTVがCACの3倍より大きい」という水準が健全だと言われています。

 

ユニットエコノミクス=3倍の理由

では、なぜ3倍なのでしょうか?

 

ここで、CAC Payback Periodに登場してもらいましょう。

CAC Payback Periodは、CACの回収期間(1顧客の獲得コストを何ヶ月で回収できるか)を意味する重要なKPIで、その計算式は次のとおりです。

CAC Payback Period = CAC ÷ 顧客の平均単価

 

この式を置き換えると次のようになります。

CAC = 顧客の平均単価 × CAC Payback Period

 

一方のLTVの計算式は次のとおりです。

LTV = 顧客の平均単価 ÷ チャーンレート

 

2つを並べてみましょう。

 

LTV  = 顧客の平均単価 ÷ チャーンレート

CAC = 顧客の平均単価 × CAC Payback Period

 

これをユニットエコノミクスの計算式に代入すると、

 

ユニットエコノミクス = LTV ÷ CAC

          = ( 顧客の平均単価 ÷ チャーンレート )÷( 顧客の平均単価 × CAC Payback Period ) 

          = 1 ÷ ( チャーンレート × CAC Payback Period )

 

となります。

ここでもう1つのKPI、平均継続期間に登場してもらいましょう。

平均継続期間は、顧客がそのSaaSを平均でどれくらいの期間使っているのかを意味する重要なKPIで、その計算式は次のとおりです。

 

平均継続期間 = 1 ÷ チャーンレート

 

これを先ほどの、

ユニットエコノミクス = 1 ÷ ( チャーンレート × CAC Payback Period )

に代入すると、

 

ユニットエコノミクス = 平均継続期間 ÷ CAC Payback Period 

になります。

分母も分子も単位が「月数」になるのでとてもイメージしやすくなりましたね。

 

ここで、CAC Payback Periodは12ヶ月以内が健全と言われることが多いので、その数字を先ほどの式に代入してみます。

 

ユニットエコノミクス = 平均継続期間 ÷ CAC Payback Period 

ユニットエコノミクス = 平均継続期間 ÷ 12ヶ月

 

さらに、ここに「ユニットエコノミクス=3倍」という数字を代入してみます。

 

 ユニットエコノミクス = 平均継続期間 ÷ 12ヶ月

3 =  平均継続期間 ÷ 12ヶ月

 

この式を置き換えると、

 

平均継続期間 = 36 ヶ月

 

となります。

これを次の式に代入します。

 

平均継続期間 = 1 ÷ チャーンレート

36 ヶ月 = 1 ÷ チャーンレート

 

この式を置き換えると、

 

チャーンレート = 1 ÷ 36 ヶ月

        = 2.777…%

 

となります。

チャーンレートの目安は一概には言えませんが、月間3%未満が望ましいと言われることがあります。

つまり、一般的に健全だとされている「CAC Payback Periodは12ヶ月以内」と「チャーンレートは3%未満」という水準を満たせば、「ユニットエコノミクスが3倍より大きい」という関係性が成立します。

 

ユニットエコノミクスは高いほうがいいのか?

おさらいですが、

 

ユニットエコノミクス = 1 ÷ ( チャーンレート × CAC Payback Period )

ユニットエコノミクス = 平均継続期間 ÷ CAC Payback Period 

 

という関係性でした。

この関係性を成立させようとすれば、

 

  • チャーンレートが2%であれば、ユニットエコノミクス3倍を維持するにはCAC Payback Periodは約17ヶ月であれば問題ない。
  • CAC Payback Periodが10ヶ月であれば、ユニットエコノミクス3倍を維持するには平均継続期間は30ヶ月以上必要になる。

 

といったように考えることができます。

このようにバランスを取ることが重要です。

このバランスについてもう少し考えてみましょう。

 

「LTVがCACの3倍より大きい」という水準が健全だということでしたが、では、このユニットエコノミクスは高ければ高いほどいいのでしょうか?

 

ユニットエコノミクスが高すぎるということは、もっと顧客獲得コストをかけることで顧客数をさらに増やすことができる、つまり、成長スピードを加速させることができるのに、そのチャンスを逃してしまっているという見方もできます。

顧客獲得コストをかけることでCACが上がったとしても、それに対するLTVとのバランスが取れている(=ユニットエコノミクス  > 3 が成立している)のであれば投資効果は良いと考えられます。

 

また、SaaSビジネスの成長ステージによってもその目安は変わってくるでしょう。

たとえば、新規プロダクトの投入間もない時期などは、PMFを達成するためのプロダクト開発や販売方法の仮説検証および確立のために、さまざまな試行錯誤を繰り返すことになるので、ユニットエコノミクスは低くなりがちです。

このようにユニットエコノミクスが低い状態での投資は、SaaSビジネスにおけるまさに先行投資と言えます。

逆に言えば、ユニットエコノミクスが健全な状態における投資は、健全なリターンを見込める投資であることから、先行投資というよりも成長投資と言えます。

 

ユニットエコノミクスの重要性

一般的に、SaaSビジネスは損益分岐点に達するまでに時間がかかります。

その間、先行投資が嵩んでいくわけですが、その先行投資が健全な状態で投資できているのかそうでないのかの一つの目安になるのがユニットエコノミクスです。

 

たとえば、売り切り型のビジネスであれば、売れた時に原価やCACを回収できるので、損益計算書を見ればそのビジネスの収益性がわかります。

 

しかし、SaaSビジネスでは、顧客を獲得した時はまだ赤字の状態で、継続的に利用されることで徐々にCACなどのコストを回収し、その後やっと利益が生まれ、さらにその利用期間が長くなるほど収益性が良くなるというビジネスモデルです。

 

このような特性があるため、ユニットエコノミクスを用いて収益性を判断しないと、顧客数が増えていて成長性があるのに、赤字事業のように見えてしまい、投資判断を誤ってしまうということが起こりがちです。

逆に、売上が順調に増えていても、ユニットエコノミクスが悪いと、近い将来、SaaSビジネスの収益性が一気に悪くなるということもありえます。

 

また、ユニットエコノミクスの推移を継続的にモニタリングすることで、実施した施策が成功だったのか失敗だったのかといった示唆を得ることができて、有効な経営判断につながるでしょう。

 

このように、ユニットエコノミクスが健全であれば、積極的に成長投資を行って、成長スピードを加速させていこうという経営判断をしやすくなりますし、逆にユニットエコノミクスが健全でなければ、まだ積極的な投資をする段階ではなく、PMFも含めたビジネスやプロダクトの仮説検証をしっかりと行うことでまずはユニットエコノミクスを健全化していこうという経営判断をしやすくなります。

 

次にこの投資判断についてもう少し考えてみましょう。

 

ユニットエコノミクスによる投資判断

先ほど、ユニットエコノミクスは、「決して高ければ高いほど良いと言うわけではない」と言うことを述べました。

理由としては、ユニットエコノミクスが高すぎるということは、もっと顧客獲得コストをかけることで顧客数をさらに増やし、成長スピードを加速させることができるのに、そのチャンスを逃してしまっているとも考えられるからです。

一言で言うと、「もっとアクセルを踏んで積極的な投資をしてもいい」ということなのですが、逆に、なぜそうするべきなのでしょう?

 

アクセルを踏んだほうがいい理由について考えてみます。

 

先行投資を将来の収益で回収できるから

売り切り型のビジネスは、通常、顧客獲得の都度、顧客獲得コストがかかります。

一方、SaaSビジネスは、一度獲得した顧客に対しては顧客獲得コストはかかりません。

しかし、売り切り型のビジネスと異なり、顧客獲得時に、それまでにかかった顧客獲得コストを回収できるわけではなく、その時点ではまだ赤字で、その後、継続的に利用してもらうことによって徐々に顧客獲得コストを回収していくビジネスモデルです。

また、その継続利用についても、半年や1年、またはそれ以上の長期契約を締結する場合も多いでしょう。

もちろん、継続利用をしていただくためにはカスタマーサクセスは重要で、そのコストは必要になってきますが、それを差し引いた粗利率が一般的には高いので、顧客獲得コストの回収はしやすいと言えます。

 

このように、継続利用によって得られる収益で、顧客獲得コストが回収しきれるのであれば、アクセルを踏んで積極的に投資をすることは合理的な経営判断と言えるでしょう。

この際の1つの指針となるのがユニットエコノミクスです。

 

参入障壁を築くことができる

通常、SaaSを導入する際には、ソフトウェアを変えることによるスイッチングコストがかかります。

導入時の費用、そのための工数、または、既存のソフトウェアに使い慣れているといった状況やそのソフトウエアにデータが蓄積されているといった状況、こう言ったもの全てがスイッチングコストとなって、ソフトウェアを入れ替えるハードルとなります。

逆に言えば、先に導入してもらうことによって、後から競合他社が参入してきても、一定の参入障壁を築くことができます。

 

LTVを高めるチャンスがある

LTV = 顧客の平均単価 ÷ チャーンレート

 

この計算式には大きなポイントがあります。

それは、

 

  • すべての顧客がいつかは解約する
  • 将来にわたって解約率が一定である

 

という前提のもと成り立っているという点です。

しかし、当然のことながら、実際には「解約する顧客」と「解約しない顧客」がいます。

 

SaaSビジネスの収益は、この2種類の顧客から得られる収益で成り立っています。

 

SaaSビジネスの収益 = ①解約する顧客から得られる収益 + ②解約しない顧客から得られる収益

 

ここで重要なのは、①のLTVはいつ獲得しても同じであるのに対して、②のLTVは早く獲得したほうが大きくなるということです。

つまり、SaaSのプロダクトとしてのクオリティなどが変わらないと仮定すると、「解約する顧客」はいつ獲得してもその顧客から得られる収益に変わりはないのでLTVは同じです。

一方、「解約しない顧客」は、獲得さえすれば、その後は永遠に収益を得られるので、少しでも早く獲得すればその分LTVは高くなります。

 

そうだとすれば、アクセルを踏んで、多少無理してでも早く「解約しない顧客」を獲得したほうが、将来期間も含めたSaaSビジネス全体の獲得収益は大きくなるはずです。

 

もちろん現実的にはこんなにも単純にはいかないでしょう。

 

解約する顧客と解約しない顧客の判別ができるわけでもないですし、プロダクトがまだ成熟していない時期にアクセルを踏んでも解約率を高めるだけです。

しかし、「こういうターゲットであれば解約される可能性も低い」というターゲットが明確であればあるほど、そこに向かって営業やマーケティングの投資を積極的に行っていくのは「あり」だと言えそうです。

 

ユニットエコノミクスを改善する方法

ユニットエコノミクスが健全でない状態は、おおよそ次のいずれかの状況であることが多いでしょう。

 

  • 顧客から得られる収益を考えた時に、それ以上の顧客獲得コストがかかってしまっているので、顧客が増えれば増えるほど損失が増えていく。
  • 顧客から収益を得られてはいるが、それに対して顧客を獲得するためのコストがかかりすぎている。

 

では、そういった不健全な状態を脱却し、ユニットエコノミクスを改善する方法について考えてみましょう。

まずは、ユニットエコノミクスの計算式を振り返ってみます。

 

ユニットエコノミクス = LTV(顧客生涯価値) ÷ CAC(顧客獲得単価)

 

つまり、ユニットエコノミクスを改善するためには、①LTVを上げるか、②CACを下げるか、です。

 

①については次の記事をご覧ください。

 

SaaSの主要KPI【LTV】

 

②については次の記事をご覧ください。

 

SaaSの主要KPI【CAC】

 

ここでの重要なポイントとしては、繰り返しになりますが、前述のとおり、LTVとCACのバランスが重要です。

単純にどちらかを下げればいいというわけでもないので注意しましょう。

執筆者

広瀬好伸
株式会社ビーワンカレッジ 代表取締役社長

プロフィール

京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。

公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。

成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。

講演実績

株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。

論文

『経営指標とKPI の融合による意思決定と行動の全体最適化』(人工知能学会 知識流通ネットワーク研究会)

特許

「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)

アクセラレーションプログラム

OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。

取材実績

日本経済新聞、日経産業新聞、フジサンケイビジネスアイ、週刊ダイヤモンド、Startup Times、KANSAI STARTUP NEWSなど。

著書

『飲食店経営成功バイブル 1店舗から多店舗展開 23の失敗事例から学ぶ「お金」の壁の乗り越え方』(合同フォレスト)

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